みなさんこんにちは

いつの間にやら残暑が通り過ぎ、台風が近づく季節となりました。

この時期は水温と気温の逆転が起きるので、ダイビングが行いやすい時期です。そのため、オープンウォーター講習の申し込みが多くなる時期でもあります。

ダイビングをまったくやったことがない人に説明すると、「私は怖い」「パニックになりそう」とよく返されます。

「パニック」はよく耳にする言葉ですが、どういう状態を指すのか、どういう定義なのかと問われると、おそらく「正常な判断力を失った状態」という人が多いと思います。

では、人間はどんな環境で、どの程度の負荷をかけるとパニックになるのか?

まず「パニック」の定義を各学者から引用すると

  • ヒステリー的信念に基づく集合的な逃走(Smelser,N.)
  • 極端な利己的状態への集合的な退行(Lang)
  • 突然発生した予期しない恐怖で, 抵抗不可能なものであり,多くの人々が同時にそれに影響される状態で多くの場合逃走や混乱が見られる状態(サトウタツヤ)

よくわからなくなりましたね(笑)

この3人の定義で共通している言葉は『逃避』といった言葉です。

つまり、何らかの状況から逃げたくなる状態のことを指しています。

ではどんな状況から逃げたくなるのでしょうか?

それは『正しい情報を得られない状況に陥った人々が冷静な判断力を失った時』です。

これにいくつかの条件が重なります。

①差し迫った脅威を現実のものとして実感していること

例えばパニック映画を見て、恐怖を感じてもパニックならないのは、現実ではないからです。ですが、子どもは映像と現実の境があいまいなので、泣き出してしまいパニックになります。

海の中にいる場合、どうしても陸上とは呼吸が異なる為、息苦しさを感じます。

通常の状態であれば、多少の息苦しさは平気ですが、精神的に追い詰められている時は「息が苦しい」⇒「窒息する」⇒「命が危ない!」と連鎖的に考えてしまい、パニックになってしまいます。

②何からの方法によってその危険から逃れて助かる見込みがあると信じられていること

例えば、海中にいる時は、陸上に戻れば呼吸が楽にできるので、全てを振り払って海底から陸上に上がろうとします。

ですが、急に浮上すると気圧差の関係で、肺破裂や意識がブラックアウトする危険があるので、絶対におこなってはいけません。

それと同時に、『なにをやっても絶対に助からない』と実感すると、逆にパニックは起きにくく居直るという事も知られています。

例としては日航機123便墜落事故のとき、乗客は一定の理性を保っていたことは知られています。

③確実な脱出のために、他の脱出者との競争に勝たなければ生き残れないかもしれないという危機感が集団の間に広がること

パニック映画でもあるように、こういう状態では、何が何でも振り切って脱出口に向かおうとします。

ですが、こういう場面では理性的な行動をとる事は難しく、人間では泣きわめいてしまったり、動物では罠にかかっているにもかかわらず、動き回ろうとして傷口をさらに広げてしまうといった行動が知られています。

④コミュニケーションが機能せず全体の状況を把握することができなくなること

当然ですが、情報が入らない状態では何をしてよいかわからず、パニックになりやすくなります。

海の中では、陸上と同じようなコミュニケーションは行えず、水中ノートによる筆談か、ハンドサインでやりとりします。

また、自分がどの位置にいるのか、どのような状態なのか陸上と比べて把握しにくくなるので、パニックは起き安くなります。

では、パニックが起きにくい状態にするにはどうしたらよいでしょうか。

先ほど、絶対に助からない状態ではパニックは起こらないと述べましたが、そんな状態に陥ってはいけません。

なので、それ以外の対策を述べていきます。

①充分に訓練された集団ではパニックが発生しにくくなる

これは、充分に訓練を受けた個人であっても同様ですが、特に集団では、危機的状況でも速やかに各人の役割分担がなされ、全員が全員で同じ行動に走り、結果パニックに陷る事態が防止されます。

また、各々が割り当てられた役割を果たすことで、危機的状況が引き起こすストレスを軽減できます。強いストレスに晒された人間の脳は、より衝動的な考えが支配的になりますが、このストレスを軽減できれば、結果として理性的な行動を行いやすいという理屈です。

例としてわかりやすいのは軍隊でしょう。

普段から訓練を行い、非常時を常時としているので、軍隊でパニックは起こりにくくなります。

②集団中に一定の権力や威厳といったヒエラルキーが存在する場合、パニック状態が抑制されやすい。

上位の存在が真っ先にパニックを起こす集団では、むしろ集団全体のパニックが増幅され、悲劇的な結果に陥りやすくなります。

なので、上位存在が良かれ悪かれ一定のリーダーシップを発揮している限り一定の安全性が保持され、パニックによる集団の被害は軽減します。

特にリーダーが適切な判断を下す能力があれば、その集団が危険を脱する可能性は格段に向上します。

つまり、ダイビングでもインストラクターがきちんとリーダーシップを発揮し、集団マネジメントを行うと、パニックは起こりにくくなります。

この他、視認性の高い安全経路情報の提示や、他者からの誘導がある場合も、パニックが起こりにくくなります。

いかがでしたでしょうか。

少し長い文章になりましたが、多少の面白みを感じていただければ幸いです。